労働問題にお悩みをお抱えで「労基と弁護士のどちらに相談するべきかわからない」という方に向けて、この記事では、労働問題について労働基準監督署と弁護士のできること及びできないことについて解説します。

 初めての方でも読み進められるような内容になっておりますので、ぜひご覧ください。

「とりあえず労基に相談」?

 「職場の待遇が悪い」「残業代が支払われていない」といった問題について、しばしば労働基準監督署に相談に行くことを提案されることがあります。他方で、労働問題は弁護士に相談に行くことも考えられるところです。

 そこで、労働基準監督署と弁護士のどちらに相談するのが良いのかという疑問をお持ちになる方がいらっしゃいます。どちらも労働問題について専門的な知見を持つため、両者にはどのような違いがあるのでしょうか、疑問に思いませんでしょうか。

労働基準監督署と弁護士のできること・できないこと

労働基準監督署にできること・できないこと

できること

・労働基準法に反する会社の行為に是正勧告や行政指導

例えば、会社が残業代を払ってくれない場合に、その会社に是正勧告を労働基準監督署から発してくれます。また、これに会社が従ってくれることもあります。他にも、長時間労働や過労に問題がある場合等にも行政指導をしてくれることがあります。

ただし、是正勧告や行政指導は、いわば「お願い」です。強制力がないので、これらを無視しようと思えば無視することができます。

・強制的に会社の事業所や寄宿舎等に立ち入って調査(労働基準法(以下、「法」といいます。)101条1項)

証拠を十分そろえて申告(法104条1項)をすれば、調査をしてくれます。ただし、これらの調査は、警察が捜索差押えをする場合や税務署が税務調査(強制調査)をする場合と同様に厳しい条件を満たした場合にのみ行うことができるものとされています。

・無料で労働問題に関する相談を受けてくれること

労働基準監督署は、労働に関する法的な情報提供に長けています。そこで、まず個別の事件についてどのような問題があるのかを気軽に相談できる場として、労働基準監督署を利用することはできるでしょう。

できないこと

・労働基準法に違反しない場合の行政指導等

例えば、解雇が有効か無効か否か判断の分かれうるものについて、労働基準監督署は動いてくれません。明確に労働基準法違反となる事例(負傷・休業期間中の解雇や産前産後すぐの解雇(法19条1項))はともかく、労働基準法など行政・刑事上の規制にはおよそ違反しない場合には、労働基準監督署は具体的な活動をしてくれません

・証拠の収集

労働基準監督署は、証拠がないと動いてくれません。事前にどのような資料を集めるべきかを教えてくれますが、持ち寄られた証拠をもとに、労働基準法に違反する事実を確認して初めて行政指導や是正勧告をしてくれます。

・民事上の責任追及や交渉の代理

労働基準監督署は、労働者のサポートをしてくれますが、労働者の代わりに交渉をしてくれるわけではありません。会社側に何か要求をしたい場合には、ご自身で行うか、弁護士に依頼をするよう提案されます。

弁護士のできること・できないこと

できること

・労働事件の経験に基づく証拠集めの助言

労働基準監督署と同じように弁護士も証拠集めの助言ができます。そして、いかなる証拠が事件を有利に進めるうえで重要になるかについて、多数の交渉事件、労働審判、裁判を経験した弁護士は労働基準監督署よりも詳しく実践的な助言ができます。

・労働者の代理人として企業と直接交渉(未払賃金、残業代請求、解雇無効等)

弁護士は、労働者の立場になって会社に対して未払賃金や残業代を請求することや、解雇をしないよう請求することができます。専門知識を駆使して交渉を有利に進めることができ、しかも労働者自身は会社と直接話をしなくとも未払賃金等を回収することができます。

・労働審判や訴訟の代理

仮に、交渉がうまくいかなければ、法的権利の実現を図ることになります。その場合には、弁護士が代理人として労働審判の申立や訴訟提起を行うことができます。

できないこと

・立ち入り等による調査

弁護士は公的機関ではないため、自身で調査をすることはできません。ただし、多様な法制度(当事者照会制度や文書提出命令制度、弁護士会照会制度等)を駆使して証拠収集を試みることはできます。

・無料のサービス(ただし、無料法律相談は可能)

労働基準監督署は無料で話を聞いてくれますが、弁護士は基本的に相談料を設けています。ただし、無料相談を実施している法律事務所もありますので、無料で相談ができる場合もあります

労働基準監督署と弁護士の両方が関与するケース

 なお、場合によっては両方に相談をするケースもあります。上で見たように、労働基準監督署は、規制をもって会社に圧力をかけます。そこで、弁護士が労働基準監督署を説得して行政指導や是正勧告をするように求めて、交渉を有利に進めるケースもあります。交渉事件を弁護士が代理していれば、労働基準監督署の説得を弁護士が行うことになります。

弁護士への相談がおすすめ

 労働問題にお悩みの場合、弁護士に相談されることをおすすめします。

 労働基準監督署も相談に乗ってくれますが、実際に事件を解決するとなれば、弁護士の方ができることが多いです。労働基準監督署は行政機関であり、国民全体のために活動をしているのであり、あなた個人の代わりに事件を解決してはくれません。

 また、労働基準監督署と弁護士のいずれかしか利用できないわけではありませんので、労働基準監督署に相談に行ってから弁護士に相談をすることもできます。逆に、労働基準監督署に相談に行く前に弁護士に一度相談するのも、事実関係や証拠の整理に非常に有意義です。

ご相談
グリーンリーフ法律事務所は、設立以来30年以上の実績があり、18名の弁護士が所属する、埼玉県ではトップクラスの法律事務所です。
また、各分野について専門チームを設けており、ご依頼を受けた場合は、専門チームの弁護士が担当します。まずは、一度お気軽にご相談ください。

この記事を書いた弁護士

弁護士法人グリーンリーフ法律事務所
弁護士 小松原 柊


令和4年3月 中央大学法学部法律学科 卒業
令和6年3月 東北大学法科大学院 修了
令和7年4月 弁護士登録