会社から病気・ケガを理由として解雇された場合の対処法

会社から病気・ケガを理由として解雇された場合の対処法をチェックしていきましょう。

私傷病と業務上の傷病(労働災害)

病気やケガ、その後遺症により、従前の仕事に復帰することが困難である場合、労務提供の不能を理由として解雇される場合があります。もっとも、病気やケガの原因が、業務上の傷病(労働災害)である場合には、その休業期間およびその後の30日間は解雇することができません。会社側が、業務上の傷病(労働災害)であるにもかかわらず、これを私傷病として扱い、就業規則等に基づき解雇したり、自然退職扱いとしたりしても、当該解雇等は無効となります。
多くの企業では、精神疾患や脳疾患、心臓疾患といった非災害性の傷病の場合において、労災認定(労災保険給付)がなされないと、私傷病扱いとすることがままあります。しかし、労災認定がなされなかったからといって、業務上の傷病ではないと単純に繋がりません。そこで、私傷病求職の期間満了による解雇や自然退職の事案においては、休職の原因となる傷病・ケガが、業務に起因するものなのではないか検討することが必要となります。
傷病が業務上のものであるかは労災保険での業務上認定(労災認定)とは別に裁判所が独自に判断することになります。労災認定があれば業務上の認定はされやすくなりますが、労災認定がなくても業務上の傷病と認定されることがあります。

私傷病を理由とする解雇

考慮要素

病気やケガそのものを理由として解雇することは認められません。これにより、労働者がある程度の期間、業務に従事できないといえる必要があります。
病気やケガにより、労務提供の不能を理由として解雇するには、⑴客観的に合理的な理由があり、なおかつ、⑵社会通念上相当であると認められるといえなければなりません(労働契約法16条)。その判断にあたっては、①病気・ケガの存在が労働能力に与える影響の大きさ、②病気・ケガの回復の可能性、③他の業務等への配転の可能性等を考慮要素とします。

①病気・ケガの存在が労働能力に与える影響の大きさ

病気やケガにより、労働能力に重要な影響を及ぼさない場合には、解雇は無効になります。
例えば、就職前に視力障害がありながらも、そのことを隠して入社したケースにおいて、裁判例では、「被控訴人の視力障害は,総合的な健康状態の善し悪しには直接には関係せず,また持病とも直ちにはいい難いものである上,・・・被控訴人の視力障害が具体的に重機運転手としての不適格性をもたらすとは認められないことにも照らすと,被控訴人が視力障害のあることを告げずに控訴人に雇用されたことが就業規則61条(重要な経歴をいつわり,その他不正な方法を用いて任用されたことが判明したとき)の懲戒解雇事由及び同54条4号の普通解雇事由に該当するということまではできない。」と判示しています(サン石油事件・札幌高判平成18年5月11日)。

②病気・ケガの回復の可能性

病気やケガによる休職からの復職にあたっては、使用者は、短期間の復帰準備期間を提供したり、教育的措置をとったりする義務を負います。
裁判例では、「労働者が休業又は休職の直後においては、従前の業務に復帰させることができないとしても、労働者に基本的な労働能力に低下がなく、復帰不能な事情が休職中の機械設備の変化等によって具体的な業務を担当する知識に欠けるというような、休業又は休職にともなう一時的なもので、短期間に従前の業務に復帰可能な状態になり得る場合には、労働者が債務の本旨に従った履行の提供ができないということはできず、右就業規則が規定する解雇事由もかかる趣旨のものと解すべきである。むろん、使用者は、復職後の労働者に賃金を支払う以上、これに対応する労働の提供を要求できるものであるが、直ちに従前業務に復帰ができない場合でも、比較的短期間で復帰することが可能である場合には、休業又は休職に至る事情、使用者の規模、業種、労働者の配置等の実情から見て、短期間の復帰準備時間を提供したり、教育的措置をとるなどが信義則上求められるというべきで、このような信義則上の手段をとらずに、解雇することはできないというべきである。」と判示しています(全日本空輸事件・大阪地判平成11年10月18日、大阪高判平成13年3月14日、最判平成13年9月25日)。

③他の業務等への配転の可能性

休職前の業務に従事できない場合でも、別の配置可能な業務で復職可能であれば解雇が無効とされることがあります。
最高裁判例では、「労働契約上その職種や業務内容が現場監督業務に限定されていたとは認定されておらず、また、上告人提出の病状説明書の記載に誇張がみられるとしても、本件自宅治療命令を受けた当時、事務作業に係る労務の提供は可能であり、かつ、その提供を申し出ていたというべきである。そうすると、右事実から直ちに上告人が債務の本旨に従った労務の提供をしなかったものと断定することはできず、上告人の能力、経験、地位、被上告人の規模、業種、被上告人における労働者の配置・異動の実情及び難易等に照らして上告人が配置される現実的可能性があると認められる業務が他にあったかどうかを検討すべきである。」と判示されています(片山組事件・最判平成10年4月9日)。
もっとも、この判例では、使用者(会社)が大規模であるということが前提となっており、単一拠点しか置いていない中小零細規模の会社において、同様にあてはまるかどうかは、慎重な判断がなされる必要があります。

さいごに

多くの企業の就業規則では、労働者の私傷病による欠勤が一定期間以上にわたる場合、これを休職とし、休職期間満了時点でも復職が困難な場合、休職期間の満了をもって解雇したり、自然(自動)退職としたりする旨の条項をおいており、このような就業規則の条項に該当するか否か、というかたちで争われることになります。
しかし、上記の通り、就業規則をそのままあてはめて、解雇したり自動退職としたりすることが認められるには、会社にとって高いハードルがあります。
会社から病気・ケガを理由として解雇された場合については、ぜひ弁護士までご相談ください。
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