会社から降格を言い渡された時に労働者はどのように対応すべきか

会社から降格を言い渡された場合、その降格の措置が違法である場合があります。そして、労働者がこれらの措置に対抗するためには、降格の意義や種類、また、過去の裁判例の内容に照らしてどのような場合には違法になるのかを理解し、適切な対応を取ることが重要です。

降格の意義

降格の意義

降格には職位や役職を引き下げるものと、職能資格制度上の資格や職務・役割等級制度上の等級を低下させるものがあります。

また、懲戒処分としての降格と、業務命令による降格があります。

降格は、権限、責任、必要とされる技能の低下を伴い、これらに応じて定められている賃金の低下をもたらすのが通常です。

そして、降格による賃金の引き下げは、賃金規程等の就業規則において定められた賃金の体系と基準に従って行われることが必要です。

例えば、東京地方裁判所平成20年2月29日判決労働判例968号124頁においては、エステ会社の部長1級の役職にあり、年収1150万円を得ていた従業員が、従業員との軋轢などを理由に次長1級の役職まで降格させられることは人事権の裁量の範囲内と判断されましたが、年収690万円にまで減額し、460万円の減給を命じたことは、賃金規定に照らして適合的であったのかは不明である(会社側は賃金規定を証拠として提出しなかった。)と判断され、違法であると判断されました。

降格の種類

懲戒処分としての降格

降格の種類

懲戒処分としての降格は、就業規則に根拠規定があり、その規定に該当し、かつ、処分の相当性が必要です。

処分の相当性については、当該行為の悪質性や懲戒処分を受ける労働者の勤務歴等に照らして、処分の重さが相当であるかという観点から判断されます。

降格の処分の相当性を認めた具体的な裁判例としては、コンサルティング、情報システムに関するシステム設計、開発及び販売などを目的とする株式会社において、シニアコンサルタントという役職で、取引先の銀行に常駐勤務していた従業員が、度重なる問題行為を行うだけでなく、上司からの指示に対しても拒否や反発を繰り返し、さらには、取引先への常駐勤務の任を解かれて入館カード返却を指示されたにもかかわらず、取引先に立ち入りを続けて警察官が臨場する等のトラブルを起こしたというケースで、アナリストへの降格処分(基本給等20%減)を有効と認めた事例があります(東京地裁平成28年10月7日判決労働判例1155号54ページ)。

また、相当性判断において考慮すべき一つの事情として、同じ規定に同じ程度に違反した場合には、これに対する懲戒は同じ程度であるべきという考え方があります。そのため、降格処分は、同様の事例についての過去の処分例を考慮してなされる必要があります。

そして、以前から見逃されてきた種類の行為に対して会社が懲戒を行うには、事前の十分な警告が必要となります。

人事権による降格

人事権による降格

人事権による降格は、例えば、販売部門の成績不良を理由に販売部長から販売部員に役職を引き下げる処分や、勤務成績不良を理由に管理職から一般職に役職を引き下げる処分のような、役職を解く降格として行われます。

就業規則に根拠規定が無くても人事権の行使として会社の裁量判断により行うことができると裁判所では判断されています。

裁判所の判断では、人事権とは、会社が労働者を会社組織の中で位置づけ、その役割を決める権限として捉えられています。労働者を特定の職務のために採用するのではなく、職務能力の向上に応じて様々な職種に配置していく長期雇用システムにおいては、労働契約上当然に会社の権限として予定されています。

もっとも、こうした人事権も労働者の職種に関する労働契約における取り決めの中で行使できるものであり、労働契約の取り決めの中における降格であっても、権利濫用法理の規制は受けますので、相当な理由のない降格で、賃金が相当程度下がるなど本人の不利益も大きいという場合は、人事権の濫用となります。

例えば、裁判例を紹介しますと、管理職の地位にあった看護師が、管理職ではない看護師に降格されたというケースで、「待遇面では役付手当五万円が付くか否かにしか違いがないうえに、本件降格が予定表(各階の看護婦についてあらかじめ作成される出勤の予定表)という重要書類の紛失を理由としていることなどに照らすと、医療法人が降格を行うとの判断をしたことは一応理解できなくはないけれども、一方、(1)本件降格が実施された直後に、当該看護師が予定表を発見していることに照らすと、医療法人が当該看護師に対し、紛失した予定表を徹底的に探すように命じたのか否かにつき疑問も存し、予定表の発見が遅れたことについて当該看護師のみを責めることもできないこと、(2)予定表の紛失は一過性のものであり、当該看護師の管理職としての能力・適性を全く否定するものとは断じ難いこと、(3)近時、医療法人において降格は全く行われておらず、また、(4)当該看護師は管理職就任の含みで医療法人に採用された経緯が存すること、(5)勤務表紛失によって医療法人に具体的な損害は全く発生していないこと等の事情も認められるのであって、以上の諸事情を総合考慮すると、本件においては、被告において、当該看護師を管理職から管理職でない看護師に二段階降格しなければならないほどの業務上の必要性があるとはいえず、結局、本件降格はその裁量判断を逸脱したものといわざるを得ない。」と裁判所が判断した事例があります(東京地裁平成9年11月18日判決労働判例728号36頁)。

まとめ

まとめ

以上の通り、ご説明をさせて頂きましたが、降格には懲戒処分と人事権の行使を根拠とする2種類があり、前者については就業規則上の根拠が必要であり、処分の相当性も求められます。

また、後者についても、権利濫用法理の規制を受け、相当な理由のない降格で、賃金が相当程度下がる等本人の不利益が大きい場合は人事権の濫用になります。また、降格による賃金の引き下げは、賃金規程等の就業規則において定められた賃金の体系と基準に従って行われることが必要です。

そのため、会社側の降格処分に対して、労働者は、以上のような観点から対応策を検討するのが良いと考えますし、処分が違法であるか否かに関しては、過去の裁判例が参考になるところ、弁護士にご相談を頂けますと、裁判例についてのアドバイスを受けることが可能ですので、法律相談をご利用頂くのが良いと考えます。

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■この記事を書いた弁護士
弁護士法人グリーンリーフ法律事務所
弁護士 村本 拓哉
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