会社を不当に解雇された場合、まずは会社に対して解雇の撤回等を求めますが、会社も譲らずに双方の主張が平行線を辿り、交渉での解決は困難という状況に陥ることがあります。
その場合、客観的な判断を仰ぐため、やむを得ず裁判を起こすという判断になることがありますが、今回は不当解雇を争って裁判を起こす場合に知っておくべきことを解説していきます。

不当解雇紛争の解決ルート


不当解雇に係る紛争が発生した場合、主な解決ルートは、交渉、労働審判、裁判の3つです。

交渉

交渉は裁判所の介入のない状態で労使双方が協議を行い不当解雇紛争の解決を目指します。協議がまとまれば合意内容を示す書面を作成する等して問題解決となりますが、協議がまとまらない場合には以下の手続への移行を検討します。

労働審判

労働審判は裁判所を介した手続であるものの、原則として3回の期日内に結論を出す迅速性を重視した手続です。迅速性を追求するがゆえ事実認定は大枠にとどまることが多くなっています。裁判官を含む労働審判委員会の見解を前提に労使双方が歩み寄る調停、労働審判委員会が判断を下す審判のいずれかで結論が出ます。労使のいずれかが審判に異議が述べた場合には裁判に移行します。

裁判

裁判は裁判所を介した手続であり、証拠に基づく慎重な事実認定を行った上で結論を導き出す手続です。何回までという期日の限定はなく主張整理や証拠調べに相当程度の時間がかかります。裁判官の心証を前提に労使双方が歩み寄る和解、裁判官が判断を下す判決のいずれかで結論が出ます。判決に不服がある場合には高等裁判所等へ上訴することができます。

不当解雇紛争を裁判に持ち込むメリット・デメリット


裁判は不当解雇紛争を解決するための一手段ですが、労働者にとってメリットだけがある手続ではありません。

メリット

・労使双方の意見が対立している場合でも、裁判官からいずれの主張が法的に正しいものであるかの判断をもらうことができる。
・証拠に基づく詳細な事実認定がなされる。
・会社が証拠を開示しない場合など裁判所を通じた証拠収集手段を利用することができる場合がある。
・労働者の主張が認められた場合、会社に対して解決時までの賃金支払い等が命じられるため、交渉等の場合と比較して解決水準が高くなる可能性がある。

デメリット

・十分な主張整理や証拠調べを行った後に和解や判決になるため、解決までに1年程度の時間を要することが多い(控訴等を含めるとさらに時間がかかる)。
・裁判では書面で主張や証拠を用意する必要があるため、その準備にかかる労力が大きい上、立証ができていないとして不利な判断をされる可能性もある。
・必ずしも裁判官の判断が労働者に有利なものとなるわけではなく、会社側が交渉時に提案してきた解決水準を下回る判断となる可能性もある。
・交渉等と比較して弁護士費用が高額になる場合が多い。

裁判の流れ

不当解雇を争って裁判を起こす場合の流れは以下のとおりです。
判決に至るまでの平均審理期間は1年を超えるというデータもあり、長丁場の戦いになる可能性が高いということは念頭に置いておく必要があります。

訴訟提起

解雇の経過や解雇が不当であると考える法的根拠等をまとめた訴状を作成の上、証拠資料を添えて裁判所に訴訟を提起します。
裁判所による訴状の形式的審査を経て、初回期日の調整が行われます(初回期日は労働者側と裁判所の都合のあう日程で設定されます)。
初回期日の調整が済んだ段階で裁判所から会社に対して訴状等が送付されます。
初回期日は訴訟提起日から1月~1月半程度後に設定されることが多くなっています。

初回期日

初回期日は労働者側の都合で設定したものであるため、初回期日に限り、会社側は訴状における請求内容に対応する答弁書(労働者の請求を認める・認めないといった結論に関するもの)を裁判所に提出することで出頭しないことが許されています。
そのため、初回期日は労働者側の代理人のみが出頭し、会社側は出頭しないということが多く、その場合、初回期日では次回期日の設定と次回までに会社側で詳細な反論書面を提出すべきことの指示がなされます。

2回目以降の期日

双方に代理人が就く場合、法廷ではなく裁判所内の準備室で、和解の可能性等を含む事実上のやり取りが行われることが多くなっています(弁論準備手続)。
そこでは、双方から提出された主張書面・証拠書類の確認や次回までの準備事項の指示、具体的な和解内容の検討といった様々なことが行われます。
おおよそ1~2か月に1回の頻度で期日が指定され、紛争解決の方向性が模索されます。

尋問期日

和解による解決が困難と考えられる事案では双方の主張関係や争点の整理が済んだ段階で法廷において当事者または証人の尋問が実施されます。
尋問はここまで双方が主張してきた事柄について当事者などから直接話を聞く手続であり、尋問時の受け答えによりいずれの主張がより信用に値するかの判断がなされます。
尋問後には審理終結となり、尋問を踏まえた主張書面の提出の有無によりもう1期日設定される可能性はありますが、判決期日が指定されます。

判決期日

通常、審理終結の2か月程度先に判決期日が指定されます。
判決期日では判決書の結論部分のみが読み上げられるだけです。
判決の結論部分は期日後に裁判所に確認をすれば教えてくれますし、期日の数日後に判決書が届きますので、双方、判決期日には出頭しないことが多くなっています。
判決書に記載された判決内容に不服がある場合には、判決書を受領した日の翌日から14日以内に判決を下した裁判所に控訴状を提出して控訴することになります。
双方が控訴せずに14日を経過した場合には判決は確定し、判決内容に沿った履行を求めていくことになります。

裁判を起こすにあたり弁護士費用以外にかかる費用


代理人の弁護士費用のほかに裁判を起こす場合には以下の費用がかかります。

印紙代

裁判を起こすにあたり裁判所に納める手数料です。
印紙代は裁判で求める請求の金銭的な価値に比例して高額となります。

不当解雇事案における主たる請求の金銭的価値は以下のとおりです。
解雇無効を前提に雇用契約上の地位の確認を求める場合、160万円
解雇期間中の賃金支払いを求める場合、訴訟提起時までに発生している賃金+審理期間中に発生する賃金(1年分)
慰謝料の支払いを求める場合、慰謝料額

上記合計金額(なお、地位確認請求と解雇期間中の賃金請求はいずれか高い金額を選択することになります)が、
300万円となる場合の印紙代は2万円、
400万円となる場合の印紙代は2万5000円、
500万円となる場合の印紙代は3万円、と徐々に印紙代が増額される関係性にあります。

予納郵券代

会社に対して訴状を送達するなど、裁判所から当事者等に書面を郵送するための郵送料を予め裁判所に納めておく必要があります。
事件終了後に使用されなかった分の郵送料は返還がなされ、逆に、不足がある場合には都度追納を求められます。
現金で予納する場合には6000円、郵券で納付する場合には合計6600円分(500円×6枚、210円×6枚、100円×6枚、84円×10枚、50円×10枚、20円×10枚、5円×10枚、2円×20枚、1円×10枚)の納付が基本とされています。

謄写費用

裁判所では当事者等の尋問結果を録音した上で反訳文を作成するのですが、最終の主張書面作成時等にその内容を確認するため、裁判所に反訳文の謄写を求めることがあります。その他、裁判所から照会をかけた際の回答文書等の謄写を行う場合もあります。
その場合、謄写枚数に対応した謄写費用(司法協会に謄写を委任する場合には1枚あたり45円など)がかかります。

まとめ

今回は不当解雇を争って裁判を起こす場合に知っておくべきことについて解説をしてきました。
会社側の対応によっては、裁判での解決を検討せざるを得ない場合がありますが、その際の判断資料としていただければ幸いです。

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■この記事を書いた弁護士
弁護士法人グリーンリーフ法律事務所
弁護士 吉田 竜二
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