解雇と残業代
解雇されてしまった場合に、未払い残業代の請求はできるのでしょうか。
結論から申し上げますと、解雇されても未払い残業代の請求はできます!
以下のコラムでは、解雇された後に残業代を請求する方法について解説していきます。
解雇の概要
まず解雇といっても、いくつか種類があるので、その概要を簡単に説明します。
解雇は、大きく分けて①普通解雇と②懲戒解雇の2つに分けられます。
普通解雇
普通解雇とは、従業員の能力不足や協調性の欠如、会社の経営悪化、就業不能など、社員の労務提供が不十分な場合に行われる解雇をいい、懲戒解雇以外の解雇をさします。
普通解雇を行うには、厳しい要件を満たす必要があります。そのため、使用者側にとって非常に高いハードルが課されています。
なお、普通解雇のうち、人員の整理を目的として行われる解雇は整理解雇と呼ばれ、これも普通解雇の一種です。
② 懲戒解雇
これに対して懲戒解雇は、従業員が就業規則などで定められた懲戒事由に該当することを理由に、懲戒処分として解雇を行うことをいいます。秩序に違反した社員に対して行う制裁的意味合いを持つ解雇です。
それでは、普通解雇あるいは懲戒解雇されてしまった場合、従業員はまず何をすべきでしょうか?
「解雇通知書」と「解雇理由証明書」の交付を求める!
会社から解雇を宣告された場合にはまず、「解雇通知書」と「解雇理由証明書」の交付を求めましょう。
解雇通知書
解雇通知書とは、会社が労働者に対し、解雇の意思表示を通知する書面のことです。
もし仮に後で会社側が「労働者側の都合で自己都合退職した、合意解約した」などと主張してきたとしても、この通知書があれば、その言い分を否定し、解雇であることを主張できます。
解雇理由証明書
解雇理由証明書とは、解雇理由(解雇事由)について具体的に記載された書面のことです。
労働基準法22条1項に基づき、労働者から請求された場合に、会社が遅滞なく交付しなければならないものです。
能力不足や成績不良が理由となっている場合は「普通解雇」と表記されるのが一般的ですが、場合によっては「懲戒解雇」とされている可能性もあるので、必ず交付を求め確認するようにしましょう。
なぜ「解雇通知書」と「解雇理由証明書」の交付を求めるのか?
後々重要な証拠となる
解雇をめぐって労働者と会社側とで紛争となり、話し合いや交渉が必要となった場合や労働審判、訴訟へと発展してしまった場合に、会社側が解雇の有効性を主張するために、当初説明していた解雇理由とは別の理由を追加で主張してくることがあります。
そこで、早期に解雇通知書、解雇理由証明書を取得しておけば、会社は、当該解雇理由証明書に記載された理由以外の主張ができなくなりますので、後付けの主張を許さず会社側の言い分を確定させることができるのです。
未払い残業代の請求
解雇と未払い残業代は別の話です。
そこで、解雇されてしまった場合でも、未払いの残業代があればそれを請求することができます。
それでは、解雇されてしまった従業員が、残業代を請求するためには、まず何をすべきでしょうか?
まずは証拠の確保!
未払い残業代の請求を行うためには、証拠が必要になります。
未払い残業代を会社との交渉で請求するか、労働審判で請求するか、訴訟(裁判)で請求するか、その方法にかかわらず、事前に証拠を集めておくことが、未払い残業代の請求のためには非常に有益です。
それでは、どんな証拠が必要でしょうか。
以下、代表的なものを列挙します。全部必要という趣旨ではありませんが、可能な限り確保していただきたいです。
①雇用契約書(雇用条件通知書)
多くは、入社時に取り交わしているものです。労働条件(就業時間や基本給、残業代など)に関する取り決めなどが明記されているはずです。
②給与明細
労働時間や残業時間の確認、残業代が毎月どのくらい支払われていたかを確認するために必要となります。
③就業規則、36協定など
写し(コピー)でも問題ありません。
④タイムカード
多くの裁判例でも、タイムカードがある場合は、特段の事情のない限り、タイムカードに基づいて作成された個人別出勤表記載の時刻から労働時間を推定しています。
在職中の場合、タイムカードのコピーをとっておくなど、予め残業代請求の証拠集めをしておくとよいと思います。
なお、タイムカードを押した後に残業しているなど、タイムカードの打刻時刻が実態に即していない場合は、タイムカードのほか別の証拠が必要となります。
⑤タコグラフ(タコメーター)
タコグラフ(タコメーター)とは、運行時間や速度の変化などをグラフ化し、その車両の稼働状況を把握するため自動車に搭載する「運行記録用計器」のことです。主に運送業(トラックのドライバーなど)において、労働時間(残業時間)を算出するために用いられます。
⑥業務日報や業務日誌
業務日報や業務日誌で労働時間が管理されている場合、その記録が正しいということが前提になりますが、労働時間(残業時間)を算出するためには有益な証拠となります。
⑦パソコンの使用時間
業務で使用しているパソコンの電源を入れた時間と電源を切った時間(あるいはログインした時間・ログオフした時間)も有効な証拠になります。パソコンが起動している時間は、労働していたと考えられることが理由です。
⑧メールの送受信履歴
メールの送受信履歴も、ひとつの証拠になります。会社のアカウントでメールを送った記録が残っていれば、その送信時間までは少なくとも会社に残っていたあるいは会社外でも業務時間内であったという証明になる可能性があるためです。
ただし、あくまでメールの内容は業務に関するものであることが前提であり、私的なメールなどでは労働時間や残業時間の認定にはつながらないと思います。
⑨上司からの残業指示書など
上司から残業を指示する内容の資料があれば、それも証拠になります。例えば、残業指示書のほか、残業を指示するメール、残業の指示を受けた際の音声の録音やメモ、上司が残業を承認したことが分かる書面などがあります。
⑩日記や手帳など
上記に挙げたタイムカード等の客観的資料がない場合でも、個人的な日記や手帳のような資料により、一応の立証ができる可能性はあります。
ただ、日記や手帳などは、ご自身で記録していることから必ずしも客観性が高いとは言えません。そのため、裁判において証拠として認めてもらうためには、日課として日々毎日機械的に記録していて、かつ具体的かつ詳細に記載されていることが前提として必要になってきます。
以上みてきたとおり、解雇をされた場合でも、残業代の請求は可能です。
そのため、解雇された場合は、「解雇通知書」と「解雇理由証明書」の交付を求めるとともに、残業代請求のための証拠を集めましょう。
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