
労働に関する労働基準監督署、労働局といった機関について、従業員(労働者)を助けてくれるということはみなさんご存じかもしれません。一方で、これらの違いは何でしょうか。また、これらの機関はどのように従業員を助けてくれるのでしょうか。労働局や労働基準監督署の役割や、できること・できないことについても解説します。
ときには「捜査」もできる労働基準監督署

労働基準監督署はどんなところ?
「労基に通報してやる」「労災は労基に相談しよう」といった表現で取り上げられる労基、すなわち労働基準監督署は、厚生労働省の中にある行政機関の一つです。日本には、労働基準監督署が300以上あるとされています。
わかりやすさを重視して説明すれば、労働に関する交番、といったものです。
その業務は、労働基準法などの関連法令遵守の監督指導、労働災害防止計画の推進、労災保険制度の運営など多岐にわたります。
具体的には、賃金や労働時間、解雇、最低賃金、健康診断といった労働条件の指導、安全衛生管理の確認、労災保険給付の実施、業務未払賃金立替払制度の運用などを行っています。ときには、労働基準法違反の疑いがある事案について立ち入り調査など、警察と同様の捜査をすることも認められています。
労働基準法や労働安全衛生法など、労働基準監督署の取り扱う法律には刑事罰のある規制が含まれます。そこで、法令順守の監督指導をすることや捜査をすることもあるのです。
労働基準監督署が対応してくれるトラブル・対応してくれないトラブル
労働基準監督官は、労働基準法に違反する労働環境を放置している会社があることを認知すると、調査を開始し、行政指導を行うことがあります。また、法令違反が認められた場合には是正指導や行政処分を行うこともあります。
仮に、皆さんが、残業代が一切払われていないことを、警察に通報したとしましょう。「民事不介入」といって門前払いされてしまうかもしれません。警察は、労働問題について話を聞いてくれることはほとんどありません。
一方で、労働基準監督署は、残業代が一切支払われないとの相談を聞いてくれます。残業代の支払等は、労働基準法上、会社が守らなければならない法律です。会社は、これに違反すると刑事罰が科せられる可能性があります。
労働基準監督署は、このような法律違反を是正させるために調査をしたり、行政指導をしたり、相談を受けたりする業務を行っているのです。
もっとも、労働基準監督署は、労働に関して万能ではありません。労働トラブルがあればすぐに対応してくれるのではなく、労働基準法や労働安全衛生法などの規制に違反した会社に関して、対応をしてくれる機関です。逆に言えば、例えば、「会社の上司からセクハラを受けた」「解雇をされたが、解雇の理由に納得がいっていない」など、もっぱら民事上の責任のみが問題になるケースについては、労働基準監督署は対応してくれません。
*例えば、下記のコラムで取り上げたような問題は、労働基準監督署で対応をしてくれません。
労働に関する行政上の政策を進める労働局

労働局はどんなところ?
では、労働局とはどのような機関でしょうか。
労働局とは、厚生労働省に属する行政機関の一つです。具体的には、「労働局は、「働く」ということに関連する様々な行政分野を、総合的・一元的に運営しながら、地域に密着した行政を担う厚生労働省の地方機関」と説明されています(厚生労働省 職員採用案内2025 労働局)。
本コラム冒頭では対比して紹介しましたが、労働基準監督署は、労働局に属する機関の一つであるというのが正確な位置づけです。
そして、労働局は、わかりやすさを重視して説明すれば、労働に関する市役所、といった性格のものだといえます
労働局は、職業安定行政、雇用均等行政、労働基準行政、職業能力開発行政といった役割を果たしています。具体的には、雇用保険制度の運営やその給付、ハローワークの運営、休職者等へのキャリアコンサル、育児介護休業制度の周知活動、企業への助成金支給事業、労働基準法遵守の周知活動、個別労働紛争解決援助サービスなど、多岐にわたります。
労働基準監督署は、「交番」といえるような、具体的な事件に対する法規制を実現する機関であるのに対して、労働局は、従業員や求職者に対する支援を行う機関です。
労働局が対応してくれるトラブル・対応してくれないトラブル
なお、地方労働局は、「総合労働相談コーナー」というサービスにおいて、労働に関するトラブルについて相談を受ける事業を行っています。このサービスでは、職場におけるセクハラや不当解雇も相談の対象として話を聞いてもらうことができます。
ただし、労働局はアドバイスまではしてくれますが、実際に従業員の代理人として労働トラブルの解決のために交渉などを行うことはできません。
労働基準監督署・労働局にできないこと

上に述べたように、労働基準監督署は、労働に関する法規制に違反し、刑事罰が科されうる事件に対応する機関です。解雇に関するトラブルなどについては、動いてくれない場合もあります。
また、労働局も、従業員の労働問題について相談を受けてくれる機関です。一方で、個別のトラブルにおいて証拠の収集について細かく助言をしてくれることや、会社との交渉を代わりに行うこと、支払われていない賃金の支払いを請求すること等を従業員と一緒に行ってくれるわけではありません。
このように、従業員が会社に対して法的な主張をする場合に、その主張を一緒にしてくれることはありません。個別の民事上のトラブルを解決することは、これらの機関にはできないのです。
弁護士に相談をしてみることも

労働基準監督署・労働局は、労働問題について、できることの範囲が狭いといえます。あなたが賃金の未払いに困っても、労働基準監督署は、会社に指導をしてくれるかもしれませんが、会社に対してあなたの代わりに賃金の支払いを請求してはくれません。
このような問題に直面したら、弁護士に相談するのはいかがでしょうか。
弁護士は、労働問題について民事上の請求ができるかどうかの判断ができるとともに、証拠収集や主張、交渉のポイントを熟知しています。また、あなたの代わりに賃金の支払いを請求することができます。さらに、刑事上の責任についても、弁護士はその旨を指摘して、交渉を有利に進めることも可能でしょう。
グリーンリーフ法律事務所は、設立以来30年以上の実績があり、18名の弁護士が所属する、埼玉県ではトップクラスの法律事務所です。
また、各分野について専門チームを設けており、ご依頼を受けた場合は、専門チームの弁護士が担当します。まずは、一度お気軽にご相談ください。