
会社から突然、会議室に呼び出され、「君の今後のキャリアについてだが……」と切り出されるといった展開が、今、ご自身の身に起きているのかもしれません。
動揺するのは当然です。しかし、弁護士としてまずお伝えしたいのは、「その場で返事をしてはいけない」ということです。
本コラムでは、会社が行う「退職勧奨」がどこから違法になるのか、そしてもしご自身がターゲットにされた場合、どのように自分を守り、有利に戦いを進めるべきかを徹底解説します。
退職勧奨を受けた場合の大前提について

まず大前提として知っておいてほしいのは、退職勧奨に応じる義務は、法律上どこにもないということです。
退職勧奨とは、会社が労働者に対して「自分から辞めてくれませんか?」とお願いする行為に過ぎません。
これに対して「解雇」は、会社が一方的に雇用契約を終了させる行為です。
会社が社員をクビにする(解雇する)には、客観的に合理的な理由と社会通念上の相当性が必要であり、そのハードルは極めて高いです。
したがって、退職勧奨を受けた際は、即座に応じる必要はございません。
「退職勧奨」と「退職強要」の分かれ道

では、どのような場合に退職勧奨が「違法」となるのでしょうか。
法律上、退職勧奨そのものは自由ですが、それが労働者の自由な意思を妨げるほど執拗、または強圧的になった場合、それは「退職強要」となり、違法(不法行為)とみなされ可能性があります。
判断のポイントを整理しましたのでご参考ください。
【適法と違法のボーダーライン】
| 項目 | 適法な範囲(退職勧奨) | 違法となる可能性(退職強要) |
| 回数・頻度 | 数回程度、短時間での話し合い。 | 毎日呼び出す、1日に何度も面談する。 |
| 拘束時間 | 30分〜1時間程度の常識的な範囲。 | 数時間に及ぶ軟禁状態での面談。 |
| 発言内容 | 今後の展望や条件の提示。 | 罵倒、人格否定、解雇をチラつかせる脅し。 |
| 人数 | 上司や人事担当者2名程度。 | 大勢で取り囲み、威圧感を与える。 |
| 本人の意向 | 「検討します」という言葉を尊重する。 | 明確に拒否しているのに執拗に続ける。 |
例えば、過去の判例では、1ヶ月弱の間に11回もの面談を行い、1回の面談が長時間に及んだケースで、退職勧奨を違法と認定し、慰謝料の支払いを命じています。
退職勧奨を受けた場合に、今すぐ取るべき「3つの防衛策」

もし、退職勧奨の渦中にいるなら、今日から以下のアクションを起こすことをお勧めします。
1 「即答」を絶対に避ける
「会社のために辞めてくれ」と言われると、真面目な人ほど「わかりました」と言わなければならない空気に飲まれます。
しかし、一度「辞めます」と言ってしまうと、後から「強要された」と証明するのは至難の業です。
「大切なことですので、持ち帰って家族や専門家と相談します」とだけ伝え、その場を離れましょう。
2 証拠を徹底的に残す(録音は必須)
面談が始まったら、迷わずスマートフォンの録音機能をオンにしてください。
「無断で録音していいの?」と不安になるかもしれませんが、自分自身が参加している会話を録音することは、裁判でも有効な証拠として認められます。
また、面談の日時、場所、出席者、発言内容を詳細に日記やメモに残しておくことも重要です。
3「辞める意思がない」ことを明確に伝える
曖昧な返事は、会社側に「押し切れる」という希望を与えます。
辞めたくないのであれば、「退職する意思はありません。引き続きこの会社で貢献したいと考えています」と、はっきり口頭またはメールで伝えましょう。
交渉の切り札:有利な条件を引き出す戦略
「この会社にはもう未練がない。でも、タダで辞めるのは納得いかない」そう考えるのも、賢い選択肢の一つです。
この場合、「合意退職」の交渉をとる方法がございます。
会社側が「どうしても辞めてほしい」と願っているなら、それは交渉のチャンスです。
弁護士が介入する場合、以下のような条件(パッケージ)を交渉材料にします。
・解決金(上乗せ退職金)の支払い
月収の3ヶ月〜12ヶ月分程度を目安に交渉します。勤続年数等によって変動します。
・賞与(ボーナス)の満額支給
退職時期を調整し、本来もらえるはずだったボーナスを確保します。
・失業保険の「会社都合」扱い
自己都合退職にされると、失業保険の受給まで待機期間がありますが、会社都合扱いにすることで、すぐに、より長く受給できるようになります。
・有給休暇の完全消化
残っている有給をすべて消化した上で退職日を設定します。
「能力不足」という攻撃への対処法について

最近、多くの企業(特に外資系や大手企業)が、退職勧奨の正当性を担保するために「業績改善プログラム(PIP)」を悪用するケースが増えています。
「君の成績はこの水準に達していない。改善されなければ、次は解雇も検討せざるを得ない」と告げられ、達成不可能な高いハードルを課される場合がありますが、これは、法的には非常にグレーな領域です。
本来、PIPは労働者の能力を伸ばすための教育機会であるべきであるため、もし、職種とは無関係な課題や、到底不可能なノルマが設定された場合、それは「退職に追い込むための嫌がらせ」として、退職勧奨の違法性を基礎付ける証拠になります。
また、面談の中で「自分の能力不足を認めます」という書面にサインを求められることがあります。
一度認めてしまうと、後から「不当な退職勧奨だ」と訴えても、会社側から「本人が能力不足を認めていた」と反論されてしまいます。
事実と異なる、あるいは納得できない評価については、毅然と拒否するか、自分の主張を付記する勇気を持ってください。
絶対にやってはいけない「致命的なミス」

焦りや恐怖から、以下のような行動を取ってしまうと、弁護士でもリカバリーが難しくなることがあります。
1 白紙の「退職願」にサインする
「形だけだから」、「後で撤回できるから」という甘い言葉に乗ってはいけません。
自筆の署名がある退職届は、裁判所において「自発的な意思による退職」の強力な証拠になります。
一度提出した退職届を「強要されたから無効だ」と証明するのは、想像以上に高いハードルです。
2 感情的になって自分から「辞めてやる!」と回答する
会社側の挑発に乗り、「そんなに言うなら辞めてやるよ!」と言ってしまうのは、相手の思うツボです。口頭であっても「退職の意思表示」とみなされるリスクがあります。
3 社内のデータを無断で持ち出す
「戦うための証拠だ」と思って、会社の機密情報や顧客リストを個人のクラウドやUSBにコピーするのは極めて危険です。
これが発覚した場合、退職勧奨どころか「懲戒解雇」の正当な理由を与えてしまい立場が圧倒的に不利になります。
証拠集めは、あくまで「自分が関与するやり取り(録音・メール・日記)」に留めてください。
話し合いが平行線なら「労働審判」という選択肢を

「会社と話し合っても埒が明かない。でも裁判は何年もかかるし、お金も不安だ……」、 そんな方のための制度として「労働審判」という手続きがあります。
これは、裁判官と労働問題の専門家(審判員)が間に入り、原則3回以内の期日で解決を目指す手続きです。通常の裁判が1〜2年かかるのに対し、労働審判は平均して3〜4ヶ月程度で決着がつきます。
「会社に戻るか、辞めるか」だけでなく、「これだけの解決金を支払って合意退職する」という調停案が示されることが多く、早期に、かつ現実的な金額で解決したい場合には非常に有効な手段です。
また、労働審判を申し立てることで、会社側も「本気で争う姿勢」を認識します。法廷の場に引きずり出されることを嫌う企業は多いため、申し立てた直後に会社側から有利な和解案が提示されることも珍しくありません。
弁護士を「代理人」に立てるメリット

自分で交渉するのが精神的に限界であれば、弁護士を「代理人」として立てることを検討してください。弁護士が介入すると、以下のようなメリットがあります。
1 会社からの直接連絡が止まる
すべての窓口が弁護士になりますので、会社からの嫌がらせのような電話やメールに怯える必要がなくなり、精神的な平穏を取り戻せます。
2 「法的なプロ」同士の議論になる
会社側も、法を無視した無茶な主張ができなくなります。
「それは判例上、退職強要にあたりますよ」とプロが指摘することで、会社側の態度は一変します。
3「相場」を逃さない
弁護士は過去の類似ケースから、最大限の解決金を引き出すための戦略を練ります。
まとめ

退職勧奨は、時に人格を否定されたような痛みを伴います。
会社がルールを無視してあなたを追い出そうとするなら、法という盾を持って対抗できます。もし「これはおかしい」と感じたら、一人で抱え込まずに専門家に相談してください。
戦うことは、必ずしも「その会社に居続けること」だけではありません。「納得のいく条件を勝ち取り、胸を張って次のステージへ進むこと」も立派な勝利です。
お悩みありましたら、まずは弁護士にご相談ください。
グリーンリーフ法律事務所は、設立以来35年以上の実績があり、18名の弁護士が所属する、埼玉県ではトップクラスの法律事務所です。 また、各分野について専門チームを設けており、ご依頼を受けた場合は、専門チームの弁護士が担当します。まずは、一度お気軽にご相談ください。







