「フレックスだから残業代ゼロ」は大きな誤解!弁護士が教える正しい残業代計算と請求の全手順

会社から、「うちはフレックスタイム制だから、何時間働いても残業代は出ないよ」、「始業も終業も自分で決めているんだから、残業という概念自体がないんじゃない?」と言われているとしたら、それは法律上の大きな誤りである可能性が高いと言わざるを得ません。

フレックスタイム制を「定額働かせ放題プラン」のように勘違いしている経営者、そして諦めてしまっている労働者の方は驚くほど多いのが実情です。

結論から申し上げます。フレックスタイム制であっても、法定労働時間を超えて働けば、当然に残業代(割増賃金)を請求する権利があります。

本コラムでは、フレックスタイム制における残業代の仕組みから、具体的な計算方法、そして証拠集めや請求のステップにいたるまで、専門家の視点で徹底的に解説します。

「自由な働き方」が「タダ働き」にすり替わっていないか、一緒に確認していきましょう。

なぜ「フレックス=残業代なし」という誤解が生まれるのか

まず、なぜこれほどまでに誤解が蔓延しているのかを整理しましょう。

フレックスタイム制とは、一定期間(清算期間)の総労働時間をあらかじめ決めておき、その範囲内で労働者が日々の始業・終業時刻を自由に決定できる制度です。

この「自由」という言葉が独り歩きし、「自分で勝手に長く働いているのだから、会社に責任はない」という理屈にすり替わっているのです。

しかし、労働基準法は「労働者の健康」と「労働に対する正当な対価」を保護するための法律です。

働き方の自由度が高まったからといって、無制限に働かせてよいわけではありません。

フレックスタイム制はあくまで「1日単位」の労働時間の縛りを「1ヶ月単位(またはそれ以上)」に広げただけに過ぎません。

フレックス制における「残業」の定義

フレックス制における「残業」の定義

通常の勤務形態では、「1日8時間、週40時間」を超えたら残業となります。

一方、フレックス制度では計算の単位が異なります。

(1) 清算期間と総労働時間

フレックス制度では、1ヶ月などの「清算期間」を通じて、あらかじめ決められた「所定労働時間(総枠)」を基準に考えます。

(2) 法定労働時間の総枠(上限)

法律で決められた「これ以上働いたら残業代を払わなければならない」という上限枠があります。

基本的に、以下の計算式で求められます。

法定労働時間の総枠 = 40時間 ×(清算期間の暦日数 ÷ 7日)

例えば、31日ある月の場合:
40時間×(31日÷7日)=177,1時間
この「177.1時間」を超えて働いた分が、法律上の「時間外労働」となり、割増賃金の支払い対象となります。

多くの企業が「月の所定労働時間は160時間」などと定めていますが、もしその月に190時間働いたとすれば、約13時間分(190時間―177.1時間)は、会社が絶対に値切ることのできない「割増賃金」が発生していることになります。

見落とされがちな「深夜割増」と「休日出勤」

見落とされがちな「深夜割増」と「休日出勤」

フレックスタイム制において、会社側が最も見落とし(あるいは意図的に無視)しているのが、深夜労働と休日労働です。

深夜労働(22時〜翌5時)

フレックス制であっても、深夜の時間帯に働けば、その時間に対して25%以上の深夜割増賃金を支払う必要があります。

これは清算期間の総労働時間が枠内に収まっていても発生する手当です。

「夜型だから夜中に仕事をするのが好き」という労働者の自由意志があったとしても、会社がそれを黙認して働かせている以上、支払いを免れることはできません。

休日労働(法定休日)

フレックス制はあくまで「労働日」における時間の割り振りです。

「休日(特に法律で定められた週1日の法定休日)」に働くことは想定されていません。

法定休日に出勤した場合、その日の労働時間はすべて35%増しの休日出勤手当の対象となり、清算期間の総労働時間の計算とは「別枠」でカウントされます。

悪用される「固定残業代制」への対抗策

悪用される「固定残業代制」への対抗策

フレックス制を導入している企業の多くが、併せて「固定残業代制(みなし残業代)」を採用しています。

「月20時間分の残業代は基本給に含まれているから、それを超えるまで払わない」という仕組みです。

多くの企業で採用しているこの固定残業代制の運用が、「法的に無効」となっている場合がございます。

  • 固定残業代が「何時間分」で「いくら」なのか明確に区分されていない
  • 固定残業時間を超えて働いているのに、差額が支払われていない
  • 就業規則に適切な記載がない

これらの一つでも当てはまれば、固定残業代そのものを無効とし、基本給全額をベースに残業代を再計算することで、請求額が跳ね上がるケースが多々あります。

弁護士が教える「勝てる証拠」の集め方

弁護士が教える「勝てる証拠」の集め方

残業代請求は、特に証拠が重要です。

会社側は往々にして「労働者が勝手に会社に残っていただけで、仕事はしていなかった」と主張してきます。

これを論破するために、以下の証拠を平時から集めておくことをお勧めします。

1 客観的な出退勤記録

タイムカードがベストですが、フレックス制の職場では「自己申告」の場合も多いでしょう。

その場合は、パソコンのログイン・ログオフ履歴、メールの送信履歴、SlackやTeamsのチャット投稿時間を保存しておくことをお勧めします。

2 業務指示の形跡

「自由な働き方」と言いつつ、実は「○日までにこれを終わらせろ」といった、明らかに長時間労働を強いる業務指示(メールやチャット)があれば、それは「会社が労働を命じた」強力な証拠になります。

3 Googleマップの「タイムライン」

スマートフォンの位置情報履歴は、自分が何時に会社に入り、何時に出たかを示す補強証拠になります。

4 給与明細と就業規則

現在の支払い状況と、会社の言い分(制度の規定)を確認するために必須です。

残業代請求の具体的ステップ

残業代請求の具体的ステップ

実際に請求を検討する場合、以下のプロセスを辿ります。

1 労働時間の再計算

まずは弁護士に相談し、過去2〜3年分(残業代の時効は現在3年です)の労働時間を正確に算出します。

端数の切り捨てや、休憩時間の不適切な控除など、会社側の計算ミスを徹底的に洗い出します。

2 内容証明郵便の送付

計算が完了したら、弁護士名義で通知書(内容証明郵便)を会社に送ります。

「自分で言うのと、弁護士が言うのとで何が違うのか?」と思われるかもしれませんが、全く違います。

弁護士名義の通知書は、「これに応じなければ裁判所の手続き(労働審判や訴訟)に移行する」という最後通牒としての重みを持ちます。

3 交渉と和解

通知書を受け取った会社の多くは、顧問弁護士と相談した上で「和解交渉」を求めてきます。

ここで、未払い分を全額、あるいは一定の解決金を上乗せして支払う合意をする場合がございます。

4 労働審判・訴訟

交渉が決裂した場合は、裁判所での「労働審判」を利用します。

これは原則3回以内の期日で結論が出る、迅速な手続きです。

訴訟提起を起こす場合、判決までに半年~1年程度かかるケースがほとんどです。

弁護士が寄り添う理由:あなたのキャリアを守るために

弁護士が寄り添う理由:あなたのキャリアを守るために

「残業代を請求したら、会社に居づらくなるのではないか」、その不安は痛いほどよく分かります。

しかし、法的に正当な権利を主張することは、決して「わがまま」ではありません。

むしろ、不当な労働環境を是正することは、ご自身に続く後輩たちのためにもなるのです。

また、現在は退職後に残業代を請求するケースが一般的です。

会社との縁が切れた後であれば、何の遠慮もいりません。弁護士が介入することで、会社との直接やり取りするストレスから解放され、冷静に「金銭的な決着」をつけることができます。

まとめ

まとめ

フレックスタイム制は、個人のライフスタイルに合わせてパフォーマンスを最大化するための素晴らしい制度です。

しかし、その裏側に「残業代を払わなくて済む」という企業の邪な思惑が潜んでいるのであれば、それは断固として拒否すべきです。

もし、この記事を読んで「自分の働き方はおかしいかもしれない」と少しでも感じたなら、それは直感を信じるべきサインです。

残業代を計算した結果、数百万円単位の未払い金が見つかることも珍しくありません。

誠実に働いた時間は、等しく価値のある財産です。その財産を取り戻すための第一歩を、共に踏み出しましょう。まずは一度弁護士にご相談ください。

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グリーンリーフ法律事務所は、設立以来35年以上の実績があり、18名の弁護士が所属する、埼玉県ではトップクラスの法律事務所です。 また、各分野について専門チームを設けており、ご依頼を受けた場合は、専門チームの弁護士が担当します。まずは、一度お気軽にご相談ください。

■この記事を書いた弁護士

弁護士法人グリーンリーフ法律事務所
弁護士 安田 伸一朗

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