紛争の内容
会社を退職したご依頼者の方が、長年の勤務にもかかわらず退職金を受け取ることができず、その支払いを求めるご相談にいらっしゃいました。会社には退職金規定が存在していたのですが、会社側は「経営陣が把握していない」こと、そして「従業員に周知していない」ことを理由にその規定の有効性を否定し、支払いに応じませんでした。
そこで、訴訟提起に踏み切り裁判所で主張を行う事にしました。

交渉・調停・訴訟等の経過
会社側の無効主張に対して、私たちは規定の有効性を立証するために、徹底的な事実確認を行いました。具体的には、規定がいつ、誰によって作成されたのか、どのような経緯で従業員に配布されたのかを依頼者の方にヒアリングし、具体的な時期や状況、関係者の証言などを詳細にまとめました。
また、規定の内容自体も重要な証拠となりました。単に「退職金規定」と書かれているだけでなく、特定の部署名や会社の事業内容に合わせたと思われる細かな文言が盛り込まれていることを指摘し、これは会社が作成し、運用していたからこそ存在する文言であると主張しました。これにより、規定が会社によって作成・管理されていたという事実をより強く示すことができました。

本事例の結末
これらの具体的な主張が功を奏し、最終的に裁判所は当該退職金規定の有効性を認めました。規定の有効性が前提となったことで、早期解決に向けた話し合いが進み、規定に基づき算出された金額をベースとして、依頼者が納得できる金額での和解が成立しました。

本事例に学ぶこと
企業が「規定の無効」を主張してくる場合、単に規定の存在を主張するだけでは不十分です。規定が作成・周知された具体的な経緯や、その内容が会社特有のものであることを示すことで、規定の有効性を客観的に立証することが可能になります。本件のように、細かな事実を丁寧に積み重ねて立証することで、最終的な解決に大きく影響するということがわかります。

弁護士 遠藤 吏恭