紛争の内容

会社が定める休憩時間中も業務から完全に解放されておらず、電話や呼び出しに備える必要があったため、その休憩時間が労働時間に該当するとして、未払い残業代の支払いを請求した事案です。

交渉・調停・訴訟等の経過

当初、会社の出勤簿上の記録に基づき残業代を計算したところ、休憩時間が控除されるため、請求額はわずかに留まるという状況でした。

しかし、ご依頼者の方から「休憩時間もまともに休めず、いつ呼び出されるか分からない状態だった」という事情を聴取しました。そこで、この休憩時間こそが手待ち時間に当たるとして、労働時間であると主張する方針に切り替え、労働審判を申し立てました。

会社側は、休憩は法律通りに付与しており、ご依頼者の方が任意で席を離れなかっただけであると強く反論しました。裁判所も、休憩時間中の業務従事の立証は難しいという心証を示しました。

しかし、ご依頼者の方の携帯電話の通話履歴(休憩中の通話記録)や、Googleタイムライン(位置情報記録)などのデジタル証拠を収集し、「労働からの解放が認められていなかった」という主張を裏付けるために、緻密な証拠に基づいて主張を重ねました。この証拠に基づいた主張により、会社側は訴訟移行後の立証リスクを考慮し始めました。

最終的には、訴訟移行も辞さないという姿勢で交渉を続けた結果、ご依頼者様の請求額がほぼ満額認められる形での和解が成立いたしました。

本事例の結末

労働審判において、請求額がほぼ満額で認められる内容の和解が成立し、ご依頼者様は適正な残業代を手にすることができました。デジタル証拠の活用が、事実認定の難しさを乗り越える決定的な要因となりました。

本事例に学ぶこと

労働事件における休憩時間の主張は、「実態として労働から解放されていたか」が最大の争点となりますが、その立証は極めて困難を伴うものです。

本件では、会社が提出する書類だけでは立証が難しい状況でしたが、ご依頼者様自身が日常的に使用していた携帯電話の通話履歴や、スマートフォンの位置情報(Googleタイムライン)といったデジタルな活動記録を収集し、それを「休憩時間中も拘束を受けていた証拠」として提出することで、裁判所の心証を動かし、相手方の反論を事実上封じることができました。

この事例は、伝統的な紙の証拠がない場合でも、デジタルデバイスに残る個人の行動データが、労働実態を裏付ける有力な証拠となることを示しています。

今後、同様の事案に遭遇した際には、立証の困難性に諦めることなく、細かく証拠を検討する必要があることを示しております。

弁護士 遠藤 吏恭