
皆さん、「付加金」とはご存じでしょうか。
あまり聞き覚えのない言葉かと存じますが、会社に対し、未払いの残業代の支払いを請求する際には、非常に重要なポイントとなります。
本コラムでは、「付加金」とはどのようなものか、どのような場面で請求できるのか及び未払いの残業代を請求する方法等について解説します。
付加金とは

労働者が、時間外、休日及び深夜労働した場合には、使用者は、労働者に対し、所定の割増率によって計算した割増賃金(残業代)を支払わなければなりません(労働基準法37条1項)。
そして、使用者が、時間外・休日・深夜労働の割増賃金(残業代)を支払わない場合に、裁判所は、労働者の請求により、未払いの割増賃金(残業代)の他にこれと同一額の付加金の支払いを命じることができます(労働基準法114条)。
つまり、労働者は、使用者に対し未払いの残業代を請求する場合、未払いの残業代と併せてそれと同額の付加金の支払いを請求することができます。
付加金を請求するためには

労働基準法114条では、「裁判所」が、使用者に対し、付加金の支払いを命ずることができると規定していますので、付加金を請求するためには、訴訟を提起することが必要です。
交渉や労働審判では付加金の請求をすることはできないということに注意する必要があります。
付加金を請求できる期間

付加金の請求は、違反のあった時から3年以内にしなければならないとされており、3年間の除斥期間が規定されています(労働基準法114条1項但し書き、労働基準法附則143条2項)。
よって、付加金を請求するためには、割増賃金(残業代)の未払いが発生した場合、すぐに割増賃金の支払いの請求に向けた行動に移すことが重要です。
付加金が認められない場合

請求したからといって必ず認められるものではない
労働基準法114条では、裁判所は付加金の支払いを命ずることが「できる」ときれていますので、付加金の支払を認めるか否かについては、裁判所の裁量に委ねられています。
したがって、付加金の支払は、訴訟において請求したとしても、必ず認められるものというわけではありません。
一般的に、付加金については「使用者による労基法違反の程度や態様,労働者が受けた不利益の性質や内容,上記違反に至る経緯やその後の使用者の対応などの諸事情を考慮して,支払の要否及び金額を検討するのが相当である」とされています(コーダ・ジャパン事件:東京高裁平成31年3月14日判決)。
付加金の支払いが命じられる場面は限定的ではありますが、請求自体は可能ですので、請求をすることが大切です。
会社が控訴をした場合
付加金は、その支払いを命ずる判決が確定した時に、使用者に支払う義務が発生します。そして、使用者が、労働者に対し、付加金の支払い義務が発生するまでに、未払いの割増賃金(残業代)を支払った場合、裁判所は付加金の支払いを命ずることはできません。
そのため、1審の判決において付加金の支払いを命ずる判決がなされても、使用者が控訴をすることによって判決の確定を先延ばしにし、その間に使用者が未払いの割増賃金(残業代)を支払い、付加金支払い命令の取消しを求めれば、裁判所は付加金の支払いを命じることはできません。
未払いの残業代を請求する流れ

残業代の計算
割増賃金(残業代)を請求するためには、まず割増賃金(残業代)の金額を計算する必要があります。
割増賃金(残業代)を計算するために、労働契約書、就業規則、賃金規程やタイムカード等が必要となりますので、事前に確保しておくことが望ましいです。
交渉
割増賃金(残業代)の計算ができましたら、会社に対し、割増賃金(残業代)の支払いを求める交渉をおこないます。
法的な手段を用いない任意の交渉となるため、労働審判や訴訟を提起する場合よりも早期の解決が期待できます。
もっとも、会社との合意が成立しなければ、割増賃金(残業代)の支払いを受けることはできないので、そのような場合には、次のステップに移行することを検討するのが良いです。
労働審判
労働審判とは、労働者と使用者間の労働トラブルについて、労働審判委員会(裁判官1名と労働審判員2名で組織)が審理し、紛争を迅速に解決する手続きです。
労働審判は、原則3回以内の期日で審理が終了することになっているため、訴訟よりも迅速な解決が期待できます。
また、話し合いでの解決を目指すため訴訟よりも柔軟な解決が期待できます。
一方で、訴訟ではないため、裁判所から付加金の支払いを命ずることはありません。
訴訟
未払いの割増賃金(残業代)に関するトラブルについて、交渉や労働審判で解決が見込めない場合には訴訟による解決を図ることになります。
訴訟では、割増賃金(残業代)の支払いの請求と併せて付加金の支払いを請求することができる点で労働審判と異なります。
訴訟では、労働者側が、未払いの残業代のあること及びその金額について立証しなければ請求は認められません。したがって、専門家である弁護士に相談することをおすすめします。
まとめ

- 残業代の未払いがある場合には、未払い残業代の請求と併せて、未払い残業代と同一額の付加金の支払いを請求することができる
- 付加金は訴訟を提起しなければ請求できない
- 付加金は、違反のあった時から3年以内に請求しなければならない
- 付加金の支払いの要否や金額については、裁判官が諸般の事情を考慮して判断する
- 付加金の支払い義務は、支払いを命ずる判決が確定した時に発生する
- 判決が確定する前までに、未払い割増賃金(残業代)の支払があった場合、裁判所は付加金の支払いを命じることができない
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