「みなし労働時間制」の適用について

社外に出て働くことが多い職場において、使用者から労働時間については「みなし労働時間制」を採用しているとの説明をされることがあります。

「みなし労働時間制」は実際に働いた時間にかかわらず一定の時間を労働者の労働時間とする制度ですが、勤務環境によっては「みなし労働時間制」の適用要件が満たされず実際に働いた時間を労働時間として算定しなければならない場合もあります。

今回は「みなし労働時間制」の適用について解説をしていきます。

「みなし労働時間制」とは?

「みなし労働時間制」とは?

労働者の労働時間は労働者が実際に働いた時間を前提に算定することが基本ですが、労働基準法は「労働者が労働時間の全部又は一部について事業場外で業務に従事した場合において、労働時間を算定し難いときは、所定労働時間労働したものとみなす。」として、一定の要件を満たす場合に労働者の労働時間を「みなし」で算定することを認めており、これを「みなし労働時間制」といいます。

「みなし労働時間制」の対象となるのは、労働者が事業場外で業務に従事し、使用者の具体的な指揮監督が及ばず労働時間の算定は困難な業務とされています。

そのため、労働者が事業場外で業務に従事する場合であっても、使用者の指揮監督が及んでおり労働時間の算定が可能である場合は「みなし労働時間制」の適用がありません。

具体的には、

  • 数人のグループで事業場外労働に従事し、メンバー内に労働時間管理を行う者が存在する場合
  • 事業場外での労働であるが、スマートフォン等により随時使用者からの指示を受けている場合
  • 前もって訪問先、帰社時間等の当日の業務スケジュールに関する具体的な指示を受けた後、事業場外で業務に従事し、スケジュールに従い帰社する場合
    などについては「みなし労働時間制」の適用がないとされています。

「みなし労働時間制」の適用に関するリーディングケース

「みなし労働時間制」の適用に関するリーディングケース

旅行添乗員に対する「みなし労働時間制」の適用について最高裁が判断した事例を紹介します。

最高裁は旅行添乗員の業務内容を詳細に検討した上で労働時間の算定が困難という状態にはないと判断し「みなし労働時間制」の適用を否定しました。

最判平成26年1月24日

「上記事実関係の下において,本件添乗業務につき,労働基準法38条の2第1項にいう「労働時間を算定し難いとき」に当たるかどうかについて検討する。

本件添乗業務は,ツアーの旅行日程に従い,ツアー参加者に対する案内や必要な手続の代行などといったサービスを提供するものであるところ,ツアーの旅行日程は,本件会社とツアー参加者との間の契約内容としてその日時や目的地等を明らかにして定められており,その旅行日程につき,添乗員は,変更補償金の支払など契約上の問題が生じ得る変更が起こらないように,また,それには至らない場合でも変更が必要最小限のものとなるように旅程の管理等を行うことが求められている。

そうすると,本件添乗業務は,旅行日程が上記のとおりその日時や目的地等を明らかにして定められることによって,業務の内容があらかじめ具体的に確定されており,添乗員が自ら決定できる事項の範囲及びその決定に係る選択の幅は限られているものということができる。

また,ツアーの開始前には,本件会社は,添乗員に対し,本件会社とツアー参加者との間の契約内容等を記載したパンフレットや最終日程表及びこれに沿った手配状況を示したアイテナリーにより具体的な目的地及びその場所において行うべき観光等の内容や手順等を示すとともに,添乗員用のマニュアルにより具体的な業務の内容を示し,これらに従った業務を行うことを命じている。

そして,ツアーの実施中においても,本件会社は,添乗員に対し,携帯電話を所持して常時電源を入れておき,ツアー参加者との間で契約上の問題やクレームが生じ得る旅行日程の変更が必要となる場合には,本件会社に報告して指示を受けることを求めている。

さらに,ツアーの終了後においては,本件会社は,添乗員に対し,前記のとおり旅程の管理等の状況を具体的に把握することができる添乗日報によって,業務の遂行の状況等の詳細かつ正確な報告を求めているところ,その報告の内容については,ツアー参加者のアンケートを参照することや関係者に問合せをすることによってその正確性を確認することができるものになっている。

これらによれば,本件添乗業務について,本件会社は,添乗員との間で,あらかじめ定められた旅行日程に沿った旅程の管理等の業務を行うべきことを具体的に指示した上で,予定された旅行日程に途中で相応の変更を要する事態が生じた場合にはその時点で個別の指示をするものとされ,旅行日程の終了後は内容の正確性を確認し得る添乗日報によって業務の遂行の状況等につき詳細な報告を受けるものとされているということができる。

以上のような業務の性質,内容やその遂行の態様,状況等,本件会社と添乗員との間の業務に関する指示及び報告の方法,内容やその実施の態様,状況等に鑑みると,本件添乗業務については,これに従事する添乗員の勤務の状況を具体的に把握することが困難であったとは認め難く,労働基準法38条の2第1項にいう「労働時間を算定し難いとき」に当たるとはいえないと解するのが相当である。」

直近で最高裁が「みなし労働時間制」の適用に関する判断を示したケース

直近で最高裁が「みなし労働時間制」の適用に関する判断を示したケース

外国人技能実習生に対する訪問指導等を行っていた労働者に対する「みなし労働時間制」の適用について最高裁が判断した事例を紹介します。

高裁は、労働者が作成していた業務日報については一定の正確性が担保されており、使用者が業務日報に基づき残業代を計算して支払ったこともある等の事情から「労働時間を算定し難いとき」にあたるとはいえないと判断していましたが、最高裁は業務日報の正確性が担保されていたという具体的事情についての検討が不十分であるとして高裁で再度審理を行うよう命じました。

最判令和6年4月16日

「しかしながら、原審の上記判断は是認することができない。その理由は、次のとおりである。

(1)前記事実関係等によれば、本件業務は、実習実施者に対する訪問指導のほか、技能実習生の送迎、生活指導や急なトラブルの際の通訳等、多岐にわたるものであった。

また、被上告人は、本件業務に関し、訪問の予約を行うなどして自ら具体的なスケジュールを管理しており、所定の休憩時間とは異なる時間に休憩をとることや自らの判断により直行直帰することも許されていたものといえ、随時具体的に指示を受けたり報告をしたりすることもなかったものである。

このような事情の下で、業務の性質、内容やその遂行の態様、状況等、業務に関する指示及び報告の方法、内容やその実施の態様、状況等を考慮すれば、被上告人が担当する実習実施者や1か月当たりの訪問指導の頻度等が定まっていたとしても、上告人において、被上告人の事業場外における勤務の状況を具体的に把握することが容易であったと直ちにはいい難い。

(2)しかるところ、原審は、被上告人が上告人に提出していた業務日報に関し、①その記載内容につき実習実施者等への確認が可能であること、②上告人自身が業務日報の正確性を前提に時間外労働の時間を算定して残業手当を支払う場合もあったことを指摘した上で、その正確性が担保されていたなどと評価し、もって本件業務につき本件規定の適用を否定したものである。

しかしながら、上記①については、単に業務の相手方に対して問い合わせるなどの方法を採り得ることを一般的に指摘するものにすぎず、実習実施者等に確認するという方法の現実的な可能性や実効性等は、具体的には明らかでない。上記②についても、上告人は、本件規定を適用せず残業手当を支払ったのは、業務日報の記載のみによらずに被上告人の労働時間を把握し得た場合に限られる旨主張しており、この主張の当否を検討しなければ上告人が業務日報の正確性を前提としていたともいえない上、上告人が一定の場合に残業手当を支払っていた事実のみをもって、業務日報の正確性が客観的に担保されていたなどと評価することができるものでもない。

(3)以上によれば、原審は、業務日報の正確性の担保に関する具体的な事情を十分に検討することなく、業務日報による報告のみを重視して、本件業務につき本件規定にいう「労働時間を算定し難いとき」に当たるとはいえないとしたものであり、このような原審の判断には、本件規定の解釈適用を誤った違法があるというべきである。

以上のとおり、原審の上記判断には、判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。

論旨はこの趣旨をいうものとして理由があり、原判決中、本件本訴請求に関する上告人敗訴部分は破棄を免れない。そして、本件業務につき本件規定にいう「労働時間を算定し難いとき」に当たるといえるか否か等に関し更に審理を尽くさせるため、上記部分につき、本件を原審に差し戻すこととする。」

差し戻し審において高裁は業務日報の正確性が担保されていたかについては否定的な見解を示し、「労働時間を算定し難いとき」に当たると判断を逆転させました。

福岡高判令和7年8月28日(差し戻し審)

「そこで検討するに、本件業務日報は、被控訴人自身が、始業時間、終業時間、休憩時間のほか、行き先、面談者及び内容と共にそれぞれの業務時間を記載した上で、毎月月末までに控訴人に提出することを求められていたものであり、いわば自己申告としての意味を有するものである。

控訴人においてその記載の正確性を確認可能かどうかについてみると、前記のとおり、被控訴人は、本件業務に関し、自ら具体的なスケジュールを管理し、控訴人から随時具体的に指示を受けたり報告をしたりすることもなかったものであるから、控訴人が本件業務日報による申告の内容の真実性を確認するために事前に得られる情報は限られており、そもそも申告された内容につき疑義のある点を抽出することが困難である。

そして、証拠(乙2~331、335~341)によれば、本件業務日報に記載された訪問先は、多数の実習実施者・実習生の所在場所、医療機関、役所等多岐にわたっており、これらの訪問先が被控訴人の訪問日、時間等を子細に記録し、保管しているとは通常うかがわれないから、控訴人において実習実施者等に確認するという方法の現実的な可能性や実効性等は乏しいものといわざるを得ないし、控訴人が、本件業務日報の正確性について、現に実習実施者等に確認していたことをうかがわせる具体的な事情もない。

なお、認定事実(5)カのとおり、本件業務日報のほかに、控訴人の職員は、実習実施者を訪問等した際に、訪問指導記録を作成していたことが認められる。

しかし、これは、法律上の義務である訪問指導を履行していることを記録するにとどまり、職員の勤務の状況を具体的に把握できるようなものとは認められない上、証拠(乙68~88、380〔枝番を含む。〕)によれば、本件業務日報と訪問指導記録は、訪問先の実習実施者や訪問時間等の記載に多々食い違いがあり、また、本件業務日報に記載された訪問先全てについて訪問指導記録が作成されていたともうかがわれないから、訪問指導記録をもって本件業務日報の正確性が客観的に担保されるものとはいえない。

まとめ

まとめ

今回は「みなし労働時間制」の適用について解説をしてきました。

「みなし労働時間制」適用の有無を分ける「労働時間を算定し難いとき」については裁判官によってもその判断が分かれるところであり、一義的な判断要素を見出すことは難しいと言わざるを得ません。

働き方が多様化し通信手段が発達した現代においては労働者が事業場外で業務を行うということが常態化しつつあります。

そのような状況においては、労働者の業務内容はどのようなものか、使用者が労働者に対してどのような指示を行い、労働者がどのようなフィードバックをしているか、また、労働者からのフィードバックによる使用者側の業務の解像度がどの程度のものか等を具体的総合的に検討することにより「労働時間を算定し難いとき」の判断が行われることになろうかと思います。

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■この記事を書いた弁護士

弁護士法人グリーンリーフ法律事務所
弁護士 吉田 竜二

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